2009年02月11日

「暴走する資本主義(Supercapitalism)」(ロバート・B・ライシュ)

昨秋以来主に自動車業界の業績低迷に伴って派遣切りが話題になり、年末年始の派遣村が耳目を集め、そしてその後も連日連日これでもかこれでもかというほどに名の知れた大企業が外資も日本企業も人員削減を発表し続けています。

「(内部留保などで)体力のある会社なのに、どうしてすぐに弱い人から切っていくんだろう。雇用を維持するのも企業の社会的責任じゃないの」
「大体さ、こんな賃金の安い人をカットするよりも、トップの給料を減らすのが先じゃない? 役員報酬カットしてから人員削減の話をするべきでしょう」

こういう意見は一般の会話でも、またテレビのコメンテーターの発言などでもよく聞かれます。私もそう思います。気持ちの上でこれに反対する人はそう多くないのではないでしょうか。

では、なぜ会社は体力があっても人員削減するのか。高額な役員報酬を払えるのにどうして底辺の労働者の賃金は安いのか。
その「なぜ」という構造の部分を説明してくれるのがこの本です。

乱暴にこの本を要約してしまうとこういえるでしょう。

人は市民であるのと同時に労働者、消費者、投資家でもある。
現代において我々は消費者として豊富な商品の中から安いものを買うことが出来、投資家としてはハイリターンを生む企業の株を持つことが出来るようになった。
その結果企業は商品やサービスの価格を下げるためコストを削減し、賃金を下げる。
企業は投資家を引き止めるために株価を上げ高配当を実施するため、利益を出さなければならず、これはコストの削減を要求する。
そして、一般の労働者の賃金が上がらないことや、不平等な富の分配を嘆く人々は、消費者としては安いものを求め、投資家としてはハイリターンを求めるのである。

発展途上国の子供を劣悪で危険な環境で長時間働かせることによって低価格で提供することを可能とする商品があったとして、これを問題視した場合、消費者はそれを叩きはしても、ではよりよい環境でより高いコストをかけて作られた商品が、品質がほぼ同じで価格だけが高くなった場合、それを買うだろうか(データからすると人はそれを買わない)。

個々の話や著者が提示する解決案の一部には納得できないものもあります。ですが、全体としては考えさせられ、同時に多くの面で目から鱗の本でした。

なお、私は普段経済書はほとんど読みません。その私でも何の問題もなく、スムーズに読み進むことが出来ました。日本人に分かりにくい企業名などはおそらく訳者が入れたと思われる補足説明が入っていたりして、これも読みやすかったです。
オススメです。

社会を憂い企業に責任を求めはしても、やっぱり自分の身に跳ね返ってくるとなったら考えちゃうのが現実ですよね。
冒頭にあげた派遣切りの問題だって、私にしても自分の勤める会社で非正規社員の雇用を守るためにワークシェアリングを導入して自分の給料が下がるとか、賃金の安い一般社員やパートアルバイトよりも経営層や管理職から給与をカットするとか、そういう話になったら反発するだろうなあとも思うのです。
もちろんそれが公平なものと思えれば、ある程度は納得するでしょう。でもそれが自分の生活の快適さを犠牲にするほどのものになったらやはり納得しないでしょう。

posted by ひかり at 17:26| Comment(2) | TrackBack(0) | 読書・漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。

私も、いつも自分で安いものを買い求めるから、それが社員を犠牲にしてまで利益を出そうとする会社に貢献してしまっているんだ、という自分の中の矛盾に反省しています。例えばWalMart、アメリカでは店員に対して、最低限の健康保険しか提供していないんですよね。保険のない人もかなりの数がいるとか。Stiglitzの本で読みました。

会社の姿勢を非難しつつも、自分がその会社を利用してしまうとしたら、その非難の矛先は自分じゃない、と最近はかなり意識するようになりました。自分で痛みを本当に受け止める覚悟がないと、そしてそういう姿勢が社会に広がっていかないと、なかなか弱いところを改善する動きにはつながっていかないでしょうね。そういう点では、一部のヨーロッパの国々はかなり進んでいる感じがします。

私はやはり日本には、アメリカのような利益が第一という社会にはなってほしくないですね。競争もある程度は大事でしょうが、80%の人が中流と思っていられた時代の方が、幸せな人が多かったのではないかな?と思います。




Posted by kbt at 2009年02月11日 19:03
kbtさん、こんにちは。

申し送れましたが、というかここでいうのもなんですが、お誕生日おめでとうございます。試験のあわただしい日々の中でも充実した1年を過ごされてのお誕生日はまた感慨深いものがあると思います。
卒業までもう少し、海のこちら側から応援しています。

さてさて、ウォルマートは悪評高いですよね〜。低賃金と無きに等しい福利厚生。
この本の中でもイメージしやすい企業なのでしょう何度も言及されています(単純に良し悪しを言っているわけではなく、考える上での例題として取り上げている)。

私も品質にこだわらないときはやっぱり安いものを選んでしまいます。そして安全性や品質を考えて高いものを選ぶことはあっても、その企業の雇用や社会的貢献度をもって商品を選ぶことはまずないので、このsupercaptalismの一員なのだと思います。

私も利益第一主義には疑問があります。やっぱり勝ち組と負け組に分かれてしまう社会よりも、みんなほどほどの方が幸せに暮らせるんじゃないかなあ。
もちろんがんばった人もがんばらない人も同じというのはそれはそれで不平等だとも思うのですけれど。

ところで余談ですが、この本によると1997年当時のアメリカ人の一人当たり年間ソフトドリンク消費量は53ガロンだそうです。計算してみると1日約550ml。 イメージしていたよりは少ない?とも思いましたが、一人当たり平均ですから乳児も病人も含めての計算で、実際にはもっと多いことでしょう。
というより、毎日毎日毎日毎日550mlって考えるととてつもなく多い量ですね。
更に90年代末の一人1日あたり平均摂取カロリーは3800カロリーだそうです。アメリカ人が全員プロ並みのアスリートか超ハードな肉体労働者というならともかく…そりゃ肥満も増えるわ。
Posted by ひかり at 2009年02月11日 22:01
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